「退去されたら損」は本当か|家賃値上げの損益分岐点を計算してみた

不動産投資

この記事で分かること

  • 家賃値上げで退去された場合、本当に損なのか
  • 「据え置き」「値上げして継続」「退去→新規募集」の3パターン比較
  • 空室・原状回復・募集費用を何年で回収できるのか
  • 家賃値上げが売却価格にも影響する理由
  • 私が「退去されたくないから値上げしない」と考えない理由

家賃値上げで一番怖いのは「退去されること」

相場より家賃が1万円安い。じゃあ1万円上げよう。そう思っても、頭をよぎるのがこれです。

「それで退去されたら、結局損なんじゃないか」

退去されれば、空室期間だけでなく原状回復や新規募集費用も発生します。だから「今の入居者がずっと住んでくれるなら、家賃を上げない方が安全」という考え方も、当然あります。

私自身、実際に家賃交渉をしてきた立場として、今回はこれを感覚ではなく数字で考えてみます。

実際の家賃交渉プロセスの全記録はこちらで公開しています。
👉 投資用マンションの家賃を上げる方法|交渉テクニックと進め方を解説

まず「何もしない場合」を基準にする

分かりやすくするため、仮の数字で考えます。現在家賃10万円、周辺相場11万円の物件があるとします。

  • A:値上げせず10万円で継続
  • B:5,000円値上げして10.5万円で継続
  • C:1万円値上げを提示→退去→11万円で新規募集

これだけ見ると、Aが安全、Bが一番美味しそう、Cが怖く見えます。ただ、Cには初期コストがあるので、実際に計算してみます。

退去されたらいくらかかる?

仮に、

  • 空室1ヶ月:10万円
  • 原状回復:15万円
  • 新規募集関連:10万円

だとすると、退去による一時コストは約35万円です。

新しい入居者が11万円で決まれば、従来より月1万円増えるので、

35万円 ÷ 1万円=35ヶ月

約2年11ヶ月で退去コストを回収できる計算になります。つまり、新しい入居者が3年以上住むなら、その後は「退去された方」が家賃収入だけでもプラスになるということです。

東京23区の投資用ワンルームマンションの平均入居率は98%前後で推移しており、これを平均すると、およそ4年に1回のペースで退去が発生する計算になります。つまり、平均的な入居期間(約4年)を前提にすれば、多くのケースで退去コストは十分回収できる範囲に収まるということです。

実は「5,000円で妥協」が一番得な場合もある

ここが重要です。既存入居者に「1万円アップ」を打診して拒否されたとき、「では5,000円ではどうですか」と交渉して残ってもらえるなら、空室も原状回復も募集費用も発生しません。年間6万円の増収がある上、退去コストもゼロです。

東京23区の投資用ワンルームマンションの平均入居率は98%前後で、これを平均すると、およそ4年に1回のペースで退去が発生する計算になります。そこで、この「平均的な退去サイクル」である4年時点で比較してみます。

ケース初期コスト月額家賃4年後の差額
据え置き0円10万円0円
+5,000円で継続0円10.5万円+24万円
退去→+1万円▲35万円11万円+13万円

平均的な退去サイクルである4年で見ても、「満額を狙わず、既存入居者と妥協する」方が、家賃収入だけで見ればまだ得という結果になります。

ところが「売却価格」まで考えると話が変わる

ここまでは、家賃収入だけの比較です。ただ、投資用ワンルームは収益還元法で価格が決まるので、月額家賃そのものが出口価格にも影響します。

還元利回り4%と単純化すると、

  • 月5,000円アップ → 年6万円 → 理論上約150万円の価格インパクト
  • 月1万円アップ → 年12万円 → 理論上約300万円の価格インパクト

という計算になります。すると、「35万円かかるから退去は絶対避けるべき」という判断が、必ずしも正しいとは言えなくなってきます。

もちろん、実際の売却価格がそのまま150万円・300万円上がるという意味ではありません。あくまで収益還元法上の理論的なインパクトとして見てください。

収益還元法についてはこちらで詳しく解説しています。
👉 不動産投資で勝つための収益還元法|家賃1万円上げると物件価値が300万円上がる仕組み

私の大阪物件では、実際に退去がプラスに働いた

ここで、実際に自分の物件で起きたことを書きます。

大阪の物件は、購入後まもなく退去が発生しました。普通なら「買ってすぐ退去された、最悪」と感じる場面です。

このマンションの最高値は8万円でした。まず8万円で更新交渉を打診したところ退去となり、新規募集では9万円という、同マンション内の過去の最高値を上回る家賃で決めることができました。結果的に、既存の市場水準に合わせたのではなく、新しい市場を自分で作った形になりました。

👉家賃16,500円アップで物件価値535万円アップ|入居者との賃料改定交渉から入居募集まで公開


一方、東京の物件は既存入居者との交渉で、退去なしのまま11,000円の値上げを実現できています。

👉 家賃11,000円アップで物件価値377万円アップ|入居者との賃料改定交渉を公開

この2つを並べると、「退去させずに上げられるなら、それが一番効率がいい。ただし、相場より大幅に安い家賃なら、退去が必ずしも悪いとは限らない」ということが分かります。

だから私は最初から満額だけを狙わない

ここが交渉の実践部分です。例えば相場との差が1万円あるとき、

「1万円上げてください」
↓ 拒否
「では更新料を免除して7,000円ではどうですか」

「5,000円なら」

というように、退去コストと値上げメリットを天秤にかけながら、着地点を探ります。単純に「相場まで上げること」が目的ではなく、保有期間全体で利益が最大になる家賃を探すのが目的だからです。

家賃交渉の方法についてはこちらで詳しく解説しています。
👉 投資用マンションの家賃を上げる方法|交渉テクニックと進め方を解説

まとめ|「退去されたくないから据え置く」もコスト

退去には目に見えるコストがあります。空室10万円、原状回復15万円、募集費用10万円、と請求書のように具体的な金額が示されるので、怖く感じます。

一方、家賃を上げないことによる機会損失は、請求書が来ないので見えません。相場11万円なのに10万円で4年間貸し続ければ、

1万円 × 48ヶ月=48万円

の家賃収入を取り逃すことになります。さらに、出口価格への影響も加わります。

だから私は、退去コストだけを見るのではなく、「家賃を据え置くコスト」も同じ土俵で比較するようにしています。これが、家賃交渉に対する私の基本的な考え方です。

毎月の収支だけでなく、出口まで含めたトータルリターンについてはこちらもあわせてご覧ください。
👉 毎月赤字でもワンルームを6室買った理由|持ち出し48万円で残債329万円減


家賃値上げの進め方や、退去のリスクとメリットについて相談したい方は、お気軽にご相談ください。

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